まつもとフィルムコモンズ『まつもと日和』完成上映会に行ってきました!
2月25日(土)に、地域映画『まつもと日和』(監督:三好大輔)の完成上映会に行ってきました!
訪れたのは全5回(2月25日2回・26日3回)のうちの1回目。会場となる松本市中央公民館Mウイングのホールには250人もの方が集まり、満席となりました。
おしゃべり自由な上映会
上映会の前には、この回限定の音楽プログラムがありました。信州大学グリークラブの合唱や、BGMを担当したデュオ「3日満月」の即興演奏(8mmフィルムの映像に合わせてアコーディオンとヴァイオリンで)、そして、信州大学人文学部の学生さんが発掘した幻の「松本市歌※」の合唱も。「3日満月」の演奏に合わせ、信大附属松本中学校2年B組のみなさんが、みずみずしい歌声を披露してくれました。
※1940(昭和15)年につくられた「松本市歌」は、高野辰之作詞、信時潔作曲。第二次世界大戦後には歌われなくなってしまい、「幻の市歌」となっていた。
監督の三好大輔さんも登壇。「映画を観ながらのおしゃべりも自由です。たくさんの懐かしい風景を見ることができますので、さまざまなことを思い出しながら、ご覧いただけたらと思います。今日はどうもありがとうございます」という挨拶に大きな拍手が贈られました。
地域映画『まつもと日和』は、カタカタカタ……という映写機の音とともにスクリーンに映し出されました。
「懐かしく温かい気持ちになる映画」
戦時下で出兵する若い男性のフィルムと、当時の思い出を語る女性、そして、その女性自身も当時歌っていたという「松本市歌」の美しい調べとともに、映画は幕を閉じました。
エンドロールでは、清水中学校美術部のみなさんが映像をトレースしてつくったロトスコープアニメーションが登場しました。赤ちゃんや餅つき、自動車など、部員たちが1枚ずつ自分の手で描きあげた絵をつないだアニメーションです。
映画の中で部員のひとりが「美術部の仲間で、このプロジェクトにしっかり参加できたので、とても幸せでした」と感想を話すシーンがあったことを思い出し、『まつもと日和』の先にある未来を感じながら観終えることができました。
上映後のホールには大きな拍手が鳴り響きました。その拍手にまぎれて、あちこちから「よかったねぇ」というため息のような声が聞こえてきました。完成した映画をみんなで観る、そこまでが『まつもと日和』のワンシーンのようだなと思ったできごとでした。
観客のひとり、大学進学をきっかけに松本に住むようになったという学生は、「懐かしいような、温かい気持ちになる映画でした。自分の地元でも地域映画をつくってみたいなぁと思いました」と話してくれました。
過去、現在、未来ーー 記憶の断片が交差する
まつもとフィルムコモンズが立ち上がったのは2022年6月のこと。松本市民のみなさんから広く8mmフィルムを集め、デジタル化を進めている市民団体です。デジタル化した映像で地域映画の自主制作と上映会も行い、上映会に訪れる地域の方々と対話する機会も大切にしています。
『まつもと日和』を監督した三好大輔さんは、2011年に東京都から長野県安曇野市に移住し、2020年に松本市に拠点を移しました。東京都、岩手県、大分県など10カ所以上で8mmフィルムを使った地域映画を制作しており、『まつもと日和』は15作目です。わずか数カ月で345本もの8mmフィルムが集まったのは松本が初めてのことでした。
『まつもと日和』の制作には、信州アーツカウンシルの助成金のほか、クラウドファウンディングも実施しました。
松本の8mmフィルムを救済し、地域映画としてよみがえらせたい!
『まつもと日和』は、各家庭のフィルムを寄せ集めるだけではなく、フィルム提供者の証言や上映会の映像も交えたドキュメンタリーになっています。編集・取材を担当するのは、まつもとフィルムコモンズのメンバーである学生たち。デジタル化したフィルムを10分ほどにまとめ、フィルム提供者の家を訪れたり上映会を企画するなどして、映像を観ながらの思い出話や鑑賞後の対話も撮影し、本編に挿入しました。
8mmフィルムに映された昭和の時代と、それを観ながら交流する現在の映像、音声、音楽、アニメーションが交差し、過去と未来をつなぐイメージとなっていくのが、地域映画のおもしろさ、すばらしさだなと思いました。そして、上映後のロビーでは、映画について語る温かい声があふれていて、その雰囲気も心に残りました。
誰かの、そして、松本の宝物に
上映後、三好監督と信州大学の加藤睦実さん、後藤湧力さんにお話をお聞きしました。
三好監督:いやぁ、ここまで来れてよかった。1年間やってきたことが、来てくれたみなさんにちゃんと伝わった実感が、今はあります。それは僕ひとりでできることじゃなくて、学生だったり、コモンズのメンバーだったり、フィルムを提供してくれた人だったり、そのご家族だったり。音楽は「3日満月」を中心に134人が参加してくれました。こんなのびっくりです(笑)。正確に数えてはいませんが、スタッフクレジットは300人を超えているんじゃないかと思います。
信州大学のみんなが編集を僕と一緒にやってくれて、一番大変な道を一緒に歩んでくれました。例えば、10本のフィルムを提供してくれた人がいたら、デジタル化したものを5分ぐらいにまとめる作業があるんです。それも大変ですが、そのあとに提供者のお宅にお邪魔したりして、5分の映像を学生も一緒に観て、観た人にインタビューする。そうすると1時間ぐらいの映像になる。そこからまたどこを本編に使うか学生自身が選んで、他の映像に組み合わせる……。そういう手間がたくさんあったんです。でも、この土地に暮らしていたり、暮らしていくだろう若い世代と、ここでずっと暮らしてきた上の世代の方たちが交流することで、映画をつくることだけじゃなく、「交流」を持ち帰ってもらえるんじゃないかなと思ってやっています。8人の提供者の方を学生が担当したのですが、自分が担当した方はもちろん、そのご家族の言葉にも全部責任を持つ、そういう姿勢で編集に携わってもらいました。
フィルムを提供してくれた方々も映画の完成を本当に喜んでくれて。観客の方も「自分の住んでいるところがたくさん映っていて嬉しくてうれしくて」と言ってくださいました。この映画が誰かの、そして、松本の宝物になっていけたらいいなと思います。
加藤さん:私は4世代が集まる家に(取材で)お邪魔したので、それはもう、圧倒されました(笑)。おじいちゃんを中心に家族みんなが集まった。それだけでもすごいことですが、みなさんがいい笑顔をしてくださったり、懐かしいって言ってくださって。編集では家族が楽しそうにしている映像を選びました。温かい空気も感じられますし、家族みんなで過ごせる時間は、長いようですごく短くて、貴重な時間だなと思ったんです。
後藤さん:松本市の街並みを撮ったフィルムもたくさん残っていて、記録としてすごくいいなと思ったんですけど、それよりも運動会とかの個人的な映像に映っている人たちの方が、自分の心に残るものがありました。編集では楽しさとかいきいきとした表情とかを選んでいたと思います。取材では、映像を観て家族ですごく楽しそうに盛り上がってくださって、そういう時間がすごくよかったです。この映画に携われたことが貴重なことだなと感謝しています。
これからも続く映画づくりと上映会
取材の最後に三好監督はおっしゃっていました。
「今日、改めて8mmフィルムっておもしろいなと思いました。子どもの成長だったり、娘の花嫁姿だったり、なんの束縛もなく、個人的に撮りたいから撮ったという純粋な思いが映像からあふれている、その気持ちが撮っている人の眼差しに入り込んでいるというか……。この視点は8mmならでは。観ている方も、映像をとおして撮影当時の空気を自分の中に入れ込めたんじゃないかなと思うんです」
『まつもと日和』完成上映会は、いつもの映画鑑賞とは少し違った上映会でした。松本市の映画を観たのに、自分のまちや遠くに暮らす家族の顔がオーバーラップする、見慣れた松本市の風景に昔の人の息遣いを感じるなど、過去・現在・未来が誰かとつながる感覚が胸にしみる、かけがえのない時間になりました。
温かくて懐かしい『まつもと日和』、みなさんも大切な人と一緒に観にいきませんか。
まつもとフィルムコモンズでは今後も上映会や対話の時間を大切に、8mmフィルムの保存・映画制作に取り組んでいくとのこと。2023年3月現在、10代から80代まで約20名が参加しており、メンバーも絶賛募集中とのことです。上映会や活動に興味のある方は、Webサイトをこまめにチェックしてみてくださいね。
(文:水橋絵美)