【レポート】第1回オンラインゼミ コーディネーター研修プログラム2026

2026年7月14日、信州アーツカウンシル主催の「コーディネーター研修プログラム2026」第1回オンラインゼミが開催しました。 本プログラムは、地域の文化芸術活動を支え、アートと社会をつなぐ「コーディネーター」の担い手を育成することを目的としています。第1回となる今回は、プログラムのオリエンテーションとともに、信州アーツカウンシルの取り組みについての共有が行われました。

地域の文化芸術を支える「コーディネーター」の役割

ゼミの冒頭は、信州アーツカウンシル長の津村さんからの歓迎の挨拶でスタート。 津村さんからは、参加者の多彩なバックグラウンドに触れ、「この研修会を通じて新しい情報やスキルをプラスし、長野県の中で大いに成果を発揮してほしい」と語られました。また、「参加者同士が交流することで、何か新しいことが起こってほしいと期待している」というメッセージがあり、これから約半年間のプログラムが単なる座学ではなく、実践的で相互的な学びの場にしてきたいという狙いが共有されました。

続いて、ゼネラルコーディネーターの野村政之さんより、本研修の企画目的と進行についての説明を行いました。

本プログラムの目的は端的にいうと、「地域の文化芸術活動のコーディネーターの担い手を増やすこと」。野村さんによれば、「コーディネーター」という肩書きは一言で表すのが難しく、アーツカウンシルのディレクターやプログラムオフィサーだけでなく、助成団体の事務局、アートマネージャー、プロデューサー、さらには福祉や教育機関で働くソーシャルワーカーなど。そうした役割をアーティスト自身が担うこともあるといいます。

コーディネーターに求められる具体的な見識・スキルとして、以下の要素が挙げられました。

  • アートのポテンシャルに対する見識:文化芸術で何ができるのか、その潜在的なイメージを持てること。

  • 事務処理や文章表現の力:現実的な実務に関わること。

  • 社会領域に関する見識:教育、福祉、まちづくり、観光、地域コミュニティ、歴史など、アートが接する領域の人々が何を望んでいるかを理解すること(社会経験を持つ人がアート側に転職して活躍する例もある)。

更に、公的機関であるアーツカウンシルでは以下のような点も重要だと考えられます。

  • 行政/公的機関/民間団体の意思決定過程への見識:それぞれ意思決定にあたって「優先順位」が異なることを理解すること。

  • 文化政策・文化行政への見識:社会の中で文化がどう期待され、政策としてどう紡がれてきたかを知ること。

これらのスキルは、実際の活動や、働く経験を通してでないと伝わりづらいものですが、コーディネーターについて知り、経験する機会をもっと広げるために、意欲ある人に向けた本研修が立ち上がりました。

多彩なバックグラウンドを持つ受講者

続いて、信州アーツカウンシルのスタッフ陣(佐久間さん、早川さん、清水さん、小澤さん、アシスタントの安藤さん、九里)からの自己紹介に続き、受講者8名と聴講生2名、計10名の自己紹介が行われました。学生から文化財団のスタッフ、地域おこし協力隊、さらには研究領域やライター、文化団体のメンバーまで、多様なバックグラウンドを持つ皆さんが参加していて、自己紹介の時間が興味深い時間でした。

この多様なメンバー同士の知見の共有が、本研修の価値をさらに高める要因になりそうです。

信州アーツカウンシルの歩みと伴走型支援

自己紹介後は、野村さんと津村さんによる「信州アーツカウンシルと長野県の文化施策」のレクチャーを実施しました。「アートを身近に 暮らしを豊かに 様々な人が文化を創り 支え合う」をキャッチフレーズに、今年で活動5年目に入る信州アーツカウンシル。レクチャーではこれまでの歩みを振り返りつつ、現場を通じて見えてきた現在の状況が語られました。

アーツカウンシルの立性とは

アーツカウンシルとは「行政と一定の距離を保ち、専門機関として助成を基軸に文化政策を執行する組織」です。行政の内部ではなく、事業団として意思決定して実行できる「立性」が最大の強みとなります。

長野県における設立の歴史

長野県における文化政策は、2010年に就任した阿部守一知事が2014年の2期目に文化政策を公約に掲げたことから本格化しました。

 

  • 2015年「文化振興元年」:県の決算剰余金の3%を積み立てる「長野県文化振興基金」(毎年約1億円)を条例で創設。

  • 当時の近藤誠一理事長(元文化庁長官)の発案により、音楽・演劇・美術・プロデュースの4分野で「芸術監督団事業」をスタート(津村さんはここでプロデュース分野の芸術監督に就任)。

  • 「芸術監督団事業のレガシー(遺産)は何か」を問う中で、近藤さんや津村さんたちが「成果を引き継ぐアーツカウンシルを立ち上げること」が構想された。

  • 2017年:国の文化芸術基本法が改正され、文化芸術と観光・福祉・教育など多分野との有機的連携が図られるよう、明記された。

  • 2018年:長野県初の文化芸術推進計画が策定。野村さんが県庁の文化振興コーディネーターとして着任。

  • 2022年:信州アーツカウンシルが正式発足。2020年のコロナ禍に、県内全域を対象としたアーティスト支援助成に200件以上の応募があったことで、設立初期から全県の文化芸術関係者に存在を知らせることができた。

  • 現在の2023年からの計画では、アーツカウンシルが36回も明記されるほど重要な位置を占めている。現在、スタッフは10名体制。

信州アーツカウンシルの具体的な支援活動

  1. 助成事業(寄り添い型支援): 年間40件以上の、長野県内の地域主体・民間主体の文化芸術活動を助成金で支援。今年から県外団体と県内者の協働を促す枠も新設しました。福祉、まちづくり、子ども支援など多岐にわたります。初めて支援する団体に対しては、行政の補助金のように「役所の会議室に呼んで聞き取り調査をする」のではなく、現場に足を運んで「面白いですね」と興味を持ってヒアリングし、信頼関係を築きながら一から伴走するスタイルが特徴です。

    事例(辰野町「◯と編集社」):空き店舗を活用した「トビチ美術館」。空き家から出た古物を「空き家の幸」として倉庫(宝島)に保管し、海外からのAIR(アーティスト・イン・レジデンス)の作家がそれを使って作品を制作。5年を経て、文具店がカフェ兼案内所になり、常設作品も誕生するなど、街の風景を変える取り組みに発展しています。

  2. 文化共創パートナー: 3年の助成を終えた団体(上田市のシアター&アーツうえだやリベルテ、茅野市で子どもにアートを届けるサポートCなど)を「文化共創パートナー」に位置づけ、支援者として協働。クラウドファンディングの共同実施(手数料なしで団体に寄付が入る仕組み)など、活動を持続するための支援のあり方を一緒に考えています。

  3. 協働・共創・発掘・交流: 信州大学との「気候変動と文化芸術(信州アーツ・クライメイト・キャンプ)」、伝統文化の支援に向けた連携などを実施。さらに明日からは、各市町村では解決できない課題に広域で連携して取り組む「広域プラットフォーム会議」も上田市でスタートします。

これらの根底にあるのは、「地域の文化を担うのはアーティストや愛好家だけでなく、企画者、場所の提供者、資金提供者、ボランティアなど多様な人々である(文化的コモンズ)」という考え方です。コーディネーターは、このコモンズの「つなぎ目」になる存在だといえます。

 

現場の課題と可能性をめぐる意見交換

講義後の質疑応答・ディスカッションでは、参加者の実務経験からの問いで議論が交わされました。

  • 指標(KPI)のあり方について

     信州アーツカウンシルが「助成団体数+連携団体数+相談件数の総数」を県の目標指標(KPI)にしている点について質問が出ました。野村さんによれば、動員数などの直接的な数字ではなく「関わりの幅(関係性)」を表現する指標として県と協議して設定したとのこと。津村さんからは、不採択の件数を含む応募件数も、関係性を示す重要な数字だ、という指摘がありました。また、まだアプローチできていない市町村へは、出張相談会(コワーキング・カフェ)などを通じて関係構築を図っています。

  • 「助成期間3年」のジレンマ

     なぜ助成期間が3年なのかという問いに対し、野村さんからは、「県が行う他の補助金(元気づくり支援金など)の枠組みに合わせた、というのが一番の理由」という回答がありました。本当は活動の変化が見える4〜5年の支援が理想だが、長く支援しすぎると団体側が「助成金がないと活動できない」と依存してしまうリスクもあるため、3年という期間は「自立を促すメッセージ」でもあるという支援側の葛藤が語られました。

  • コーディネーターの役割と、移住者と地元住民の構図

     コーディネーターとは「何かを立ち上げたい人」を見つけ、つなぐ存在であること。 また、地域活動の担い手は地元住民か移住者かという問いに対し、「Uターンや移住者の方が新しい調整への挑戦や外の経験やアイデアを持っているため、新しい取り組みの中心になりやすい。長く住む人は必ずしも変化を望まない人も多い。それぞれの人が、地域の魅力を再発見し、出会うプロセスが必要」と回答。今後のゼミの重要テーマとなりそうです。

  • 「担い手」という言葉の奥深さ

    「担い手」という言葉の定義について議論がありました。野村さんからは「いまの世の中は「発信者」と「受信者」、「販売者」と「購入者」を分けたがるが、文化芸術においてはそう簡単に分けられない」と指摘。「発信者(表現者)にならなくても、受け手であっても、場所を提供して傍観しているだけの人であっても、現場においては立派な『担い手』になりうる」という話がされました。こちらも考えていきたいポイントになりそうです。

おわりに

最後に津村さんから、「この4年で一番驚いたのは、長野県のアクセスのよくない地域同士でも、我々が支援した団体・アーティスト同士が私たちの知らないところで勝手につながり、新しいことを始めていることだ」という総括がありました。

これこそが、支援の先にある自律的ネットワークの姿なのだと感じました。

レポート:九里美綺(信州アーツカウンシル)

第1回オンラインゼミ
「開講式/信州アーツカウンシルと長野県の文化施策」

日時:2026年7月14日(火)18:00-20:00
形式:オンライン
話し手:津村卓、野村政之(信州アーツカウンシル)

 

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