モンスターパペットをつくって遊ぼう@佐久市(いいだ人形劇センター)
1月14日、佐久市コスモホール小ホールにて、『モンスターパペットをつくって遊ぼう』と題したワークショップが開催されました。いいだ人形劇センターのこの事業が佐久市文化事業団とタッグを組み、今まで開催されたことのなかった東信地域で開催されたことは、今後につながる新しい取り組みとなりました。
画像からお分かりいただけるように、このちょっぴり不気味で愛嬌のあるパペットを自分で作ることができるとあって、参加の申し込みも早い段階で満席となりました。コスモホールの小ホールというフラットで広い空間に30席並べられ、奥にはたくさんのふわふわキラキラした素材が用意されました。受付にはカラフルな紙コップが置かれ、自分の好きな色のものを一つ選んで手元に持っていきました。
いよいよワークショップが始まりました。初めは講師である人形美術家の吉澤亜由美さんと人形劇俳優の後藤渉さんによるパフォーマンスが繰り広げられ、セリフのない笛の音とコミカルなモンスター2体の動きに子どもたちの目は釘付け。1体のパペットの同じイタズラが繰り返される面白さから、見えていなかった演者たちが前に出てきてパペットともに踊るという意表をついた流れに会場では笑いが起きました。その後いよいよパペットづくりの始まり。最初にくっつける目玉を選び、自分の使いたい素材を選びに行きます。素材を選ぶ時の子どもたちの目はキラキラしていて、なんだかブツブツと独り言をつぶやく子も。カラフルでさまざまな形体の素材をペタペタ貼っていくという手軽さは、子どもたちにとって作業がスムーズに進み、「もっとこうしてみたい」という遊び心や発展性が見られました。
パペットが完成しておもむろに見せにくる子どもがいたり、「こんなもんかな」としていた子が「いいじゃん。これ面白い」などの声掛けに、「あ、もっと自由にして大丈夫なんだ」とちょっといたずらっぽい表情でいろんなアイデアを出してきたり。子どもたちの創作意欲は絶好調でした。
さて、ここからがこのワークショップのメインと言っても過言ではない時間でした。自分でつくったパペットを操って、最初見た人形劇の舞台に自分も立てるのです。一度のワークショップの中で、パフォーマンスを観て、人形をつくって、自らその人形でパフォーマンスするというところまでやれるのは珍しいですし、一つのサイクルを経験することができる素晴らしい構成でした。
ここで少し子どもの「経験」という視点からお話をしたいと思います。アメリカの哲学者デューイは、
「経験の質」を「相互作用性」と「連続性」という二つの視点から捉えました。そして教育を「経験の再構成」とし、新たな経験をして既に持っていた知識や技術の再構成を繰り返すことで成長すると言っています。ここで哲学者の話を持ち出すのはいささか飛躍しすぎじゃないかとお思いかもしれませんが少しお付き合いください。まず「相互作用性」とは、子どもの外部の環境や他者に働きかけることが経験の質を上げるということです。今回では子どもたちが実際に素材と向かい合い手を動かしてパペットを作り、人に見せるという活動になります。「連続性」とは過去の経験は未来の経験に影響を与えるということです。初めに見た俳優さんによるパフォーマンスから自分で創り出すという経験を経て、自分でパフォーマンスをするという段では、自分の表現も違ったでしょうし他の子どものパフォーマンスの見方も違ったはずです。そして特筆すべきは、活動後のアンケートで「今回のワークショップを経験して、いいだ人形劇フェスタやキッズ・サーキットin佐久に行ってみたい」という声が複数あったということです。まさに次の経験を引き起こす質の高い経験になったということでしょう。
私は自宅でアートワークショップを開催したり、「ちっちゃな劇場」という小さい空間でのちょっとしたパフォーマンスをしたりしています。子どもの中にある「表現したい」という思いを誘発し、楽しみ探求しながら自分の手で創り出すことで、上滑りすることのない「自分の経験」を得るということを大事にしています。そしてそれは「自分の正解をつくり出す」という「アート思考」と呼ばれる行為です。この「楽しんで探求して自ら創造する」という態度が、全ての行為の根底にあると、人生がより豊かに、デューイのいう「経験の再構成」が生まれていくと考えるからです。
上質なインプットから上質なアウトプットが生まれ、アウトプットが次のインプットを引き起こす。どこかのビジネス書に載っていそうな言葉ではありますが、こうして文化芸術も豊かに発展していくのだなと深く感じた時間でした。
(文:大村麻弥 https://www.instagram.com/kogma/)